恋の花びら大回転

【第19話】押し掛け青春映画
いきなり昔話で恐縮なんですが、私がまだ20代前半のしゃかりきコロンブスだった頃のお話です。
20代の私は、有り余る自意識、容赦ないメンタルの弱さ、3歳児並みの社会性を兼ね備えた、ものすごい馬鹿な女でした。今でもあんまり大差ないけど。
忍耐力もないので、その頃同棲していた彼氏の家を突然ポーンと飛び出してしまった。
カバン一つで家出したものの、行くあてもない。もちろんお金もない。
ふと、数ヶ月前のイベントで連絡先を交換したK君という男の子が、隣町に住んでいることを思い出し、
「住む場所なくなっちゃったからしばらく泊らせて」
といきなりお願いしたところ、K君は「いいよ」と即答。
ほぼ見知らぬ人んちに泊まろうとする私も私だけど、それを即受け入れるK君もどうなの。
飲食店の店長をしていて、帰る時間もまちまちなので、「俺がいない間に自由に使っていいよ」とのこと。K君、心広すぎ。
K君の家は狭いワンルームで、服やレコードや洗濯物が部屋中に散らばっていて、冷蔵庫は空っぽで、いかにも忙しい男の独り暮らしという感じだった。
しかも、敷き布団がない。硬いベッドの上に直接寝てる。
綾波レイでさえもうちょっといい環境で寝てたよ!
スーパーで敷き布団や掃除道具一式を買ってエンヤコラと運び、K君が留守の間にカビだらけの風呂を掃除したり溜まってた洗濯物を干したりして部屋を綺麗にした。
夜中に帰ってきたK君に「掃除しといたよー」って言ったら、確か「うん」だか「ほんとだ」だか言ってた。リアクションが超うすかったことだけ覚えてる。
ちなみに、K君は細身でオシャレなメガネをかけた無口な青年でした。音楽にやたら詳しかった。
押し掛けられて超迷惑だったはずなのに、文句一つも言わないでいてくれて、優しい人だったな。
今にして思うと、実はすごい変な人だったのかもしれないけど。
2ヶ月ほど共同生活をし、私はその間にアルバイトでお金を貯めて無事引っ越すことができました。
家具も布団もない中野区のアパートの一室で、K君に「今までありがとう」とお礼を言って以来、K君には一度も会っていない。
数年後、K君から「結婚しました」ってメールが来て「おめでとう!」って返信したんだけど、今はメールアドレスすらわからなくなってしまいました。
K君、今はどうしているのかな。
あの時は本当にありがとう。
K君の家で過ごした二ヶ月間は、ファンタジーのような不思議な思い出です。私の記憶の中で一番青春映画っぽい思い出かも。
ただ、残念なのはK君がどんなOCCだったか全然思い出せないということです。
何回かセックスしたはずなのに…。
もしかして、K君、女だった…?

藍川じゅん
元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中!