Profile
鶯谷デリヘル倶楽部
まゆりサン 32才
大学を1年足らずで中退し、その後風俗業界へ。ハコヘル、ホテヘル、デリヘル、ソープ、SMクラブなどさまざまな店舗形態を経験。毎日欠かさず腹筋60回をしているおかげで、30歳を越えてもスレンダーボディをキープ。笑顔とお客さんに対してすべてをさらけ出す素直さがチャームポイント。趣味はペットの蛇、亀、アロワナの世話をすることと、ドンキホーテめぐり
生きていれば友人に裏切られることもあれば、裏切ることもある。そうでなくても、物理的、もしくは精神的距離が離れて、音信不通になることはザラ。だからずっと友人関係でいられる人って、実は少ない。では友人の数は年を重ねるごとに減っていくのかといえば、そうではない。当たり前だが、新しい出会いがある。
手垢のついた表現で恐縮だが、そういう人たちに生き方を変えてもらえるケースは結構ある。そして、それは風俗嬢でも同じなのだ。今回取材したデリヘル嬢のまゆりさんもまさにそのうちのひとり。
私は何もかも続かない、本当にダメなやつ
今回取材するのは「鶯谷デリヘル倶楽部」。鶯谷の駅周辺はややひなびた街並みで、風俗は多いが、ある意味で風俗嬢の終着点のようなパブリックイメージがある。取材場所へ向かう道中には、ラブホテルに囲まれた神社があったりとなかなかカビくさい色香が漂う街である。
取材場所の事務所につくと、20~30代くらいの若いふたりの男性スタッフに招き入れられ、室内へ。間取りは2DK程度だろうか。なんてことのないマンションの一室を事務所として構え、ここからデリヘル嬢たちは客の元へ向かう。午後2時という時間帯ながら、事務所の電話はひっきりなしに鳴り、スタッフは慌ただしくそれらに対応している。
待機中や出勤してきた女性も視界に入り、そのうちのひとりが取材対象者として紹介された。それがまゆりさん。鶯谷という土地柄から正直、外見面では期待をしていなかったが、それに反して、彼女は細くてスタイルもよく、男ウケする容姿を持っていた。ただ少し、心に影が差しているような第一印象が気になった。
「風俗は、19歳くらいから始めました。きっかけは…何だったんでしょうね。高校を卒業して大学に入ったんです。当時は英語が好きだったんで、英語関連の学部に入れて頑張るぞって気持ちでしたが、勉強についていけなくて授業をサボって、“元友達”と一緒にカラオケばっかり行っていて。当然単位は取れず、『本当に私はダメだなぁ…』なんて自暴自棄になってたんですよ。
しかも、大好きだったおじいちゃんも死んじゃって、もう何もやる気が起きなくなっちゃって。ほとんどヤケクソで大学を辞めました。1年間も通いませんでしたね。で、まぁ何かしなくちゃなぁ、と思い歌舞伎町のキャバクラで働くようになりました。
でも、私ってお酒も飲めないのでキャバクラにはまったく向いてないんですよ。それにすごく人見知りで、基本的にはあんまり人とは話せない。同僚も含めてですよ。だから仕事について誰にも相談できずに1週間くらいで辞めました。そのときは、『何もかも続かない、私はダメなやつだ』とかなりネガティブになってましたね。
次は歌舞伎町のホテヘル。風俗に行く抵抗とか何も考えず、とりあえずって気持ち。男性経験はその時点で少なくなかったので、お酒飲んで人と話すよりもそっちのほうが気楽だろう、くらいには思ってたかもしれません」
彼氏からの“結婚しない宣言”は本当にショックでした
そのお店はそこそこ続いたが、社交性の低さは相変わらず。風俗嬢でもお客さんとろくにコミュニケーションも取らずに、いくらかわいくてもただ抜いてるだけでは指名本数を増やせるわけもなく、稼ぎの面ではいまいちだった。そして、決して多くない給料は、“元友達”と一緒にホストクラブなどに行って散財。懐は常に寂しい。
「もうちょっと過激なことやれば給料面がマシになるかなと思い、歌舞伎町のSM系風俗に行きました。SMといっても、私は女王様じゃなくてM女役です。そういうのが好きだった? いえ、全然。だから緊縛やムチ、ろうそくとかのプレイは苦痛でしかなかったです。それで特にMに目覚めることなく、逃げるようにデリヘルに流れました。はい、また歌舞伎町です。
そこでも相変わらず指名は増えず、車の中で何時間も待機する日が多かったんですけど、そのときのドライバーさん、50代のおじさんですが、その人と妙にウマが合って。待機時間中はずっと話してましたね。会話の内容は、思い出すのが難しいくらいなんてことないものです。でも“元友達”とはひょんなことから起こったケンカで縁を切ってだいぶ経っていましたし、そのドライバーさんが久しぶりに人見知りしない他人だったもので、その人と会話をしに出勤しているような状態でした(笑)」
少し心を開けるようになったのか奏功してたか、立ち寄ったバーのバーテンダーと意気投合し、恋人になることに。
「私は3代目の岩ちゃんみたいなイケメンが好きなんですけど、元カレは全然イケメンじゃなかった(笑)。でも優しかったから大好きで、彼からお願いされたので夜の生活からあがることに決めました。それで、ふたりで一緒に派遣登録をしまして、長野のカップル寮に移り住むことに。同棲だし、職場も同じ。ずっと一緒にいれたので、見ず知らずの土地でも楽しい毎日でした。
ですが、付き合って3年目くらいに元カレから『結婚する気はない』と言われちゃいまして…。私的には結婚したかったのでショックでしたね。原因? 私がズボラだったからだと思います。洗濯も掃除も料理も私は何にもしなくて、全部彼にやってもらっていたので…。結婚しない宣告されても好きなことには変わりはないので、その後も別れることはなくダラダラと関係は続いてました。
ふたり揃って派遣切りにあって東京に戻ってきました。で、またカップル寮に入って同じ職場で4年間一緒に仕事をしてたんですけど、結婚しない宣言から私もやさぐれちゃって…浮気をするようになりました。1回目、2回目は彼も許してくれたんですけど、3回目は許してもらえず、フラれてしまい…。彼は一度も浮気をしてなかったからしょうがないですけど、もう未練タラタラでしたよ。だって8年間も付き合ってたんですから」
結婚願望はあります! 家事? 今はもうなんでもできます!
元カレを残し、彼女だけ派遣先の職場を辞め、心を閉ざした風俗嬢へと逆戻り。立川、川崎、吉原、池袋、大塚のデリヘル、ホテヘル、ソープを渡り歩く。だが、以前と同じように、ふさぎ込んだ毎日。そうして流れ着いたのが鶯谷だった。
「それまでのお店は同僚とバチバチだったんですけど、半年前、鶯谷で最初に働いたお店はすごくフレンドリーな雰囲気。でも、私は相変わらず人見知りでいまいち馴染めてなかったんですけど、そのお店の先輩に、『もうちょっとお客さんとも同僚とも打ち解けなよ』ってアドバイスというか、軽い説教をされたんです。それから意識が変わりました。お客さんとも心を開いて接客するようになれたんです」
鶯谷での生活の話に差しかかると、声の調子が途端に明るくなった。鶯谷に来て、“元”じゃない友達に出会えたことが非常に大きかったのだろう。壁に貼られている成績表を見てみると、まゆりさんの指名本数はかなりのものだった。「鶯谷に人生観を変えてもらったと言っても過言じゃないですね」と言う彼女のセリフも俄然、説得力が増す。
最初に感じた彼女からの影は、退廃的なものではなく、初対面の我々に対して、かつての人見知り癖を若干なり発揮していただけだったようだ。でも、ひとたび警戒心が薄れれば、どこにでもいる30代女性の社交性となっていた。打ち解けた雰囲気になったところで、今の生活について聞く。
「今は週3~5日、だいたい午後2時から10時までで入ってます。それ以外は基本的に家にいます。ペットの亀と蛇とアロワナの世話をしたり、ガンプラを作ったりするのが趣味ですね。女性でガンプラ趣味は珍しい? そうですね。元カレが好きだったのでそれにつられて。
日課は毎日腹筋60回やること。これも同棲中の元カレの影響ですね…(苦笑)。でもまぁそのおかげで、この年になっても49kgとそれなりに体型をキープできてるので感謝です。あとはお店の人とご飯に行ったり、買い物行ったり。とにかく今は毎日ハッピーに過ごせてます」
彼女の今の生活は出会った人との影響が多分に感じられる。もともとそういうタイプの性格だったのだろう。出会う人の質によって、10代から20代にかけてと今で、こうも生きる姿勢が変わるものなのか。彼女が風俗に流れ着いたのは必然だったかもしれない。でも、彼女が今、こうして前向きに働けているのは、出会いに恵まれたからに他ならない。
「お客さんからは『笑顔がいいね』って言われます。自分の武器、最近になってようやく知りました。今のところまったく辞めるつもりはない。だって今は何の悩みもありませんから。そのときの自分がやる気があれば、別に50歳になって風俗やっててもいいですよ。
ただ、彼氏ができて、夜をあがってほしいと言われればいつだって辞められます。結婚願望は超ありますから。家事は大丈夫かって? もちろん! 今は炊事も掃除も洗濯も、全部自分一人でやってるし、ドンキホーテを巡るのが好きなので、どれをどこの店で買えば一番得できるかも把握してます。所帯じみてると思いませんか?(笑)」
彼女に「笑顔がいいね」と褒めた客の気持ちが、少しだけわかった気がした。