潰し合う女たち
【第5話】高級ソープ嬢の憂い
私はソープに勤めて約5年になる。
20代後半から30代にかけてソープ嬢は一番活躍できる。
AV女優は若い時しか売れない。20歳を迎えてすぐにAV女優としてデビューした。
AV業界で3大NGといわれる、SM・アナル・スカトロの中でスカトロ以外はOKの期待の新人女優だった。
単体女優としてテレビや雑誌で特集され、売上もそれなりにあった。
周りもプロ意識の高い女優仲間が多くて楽しかったが、年齢を重ねるごとに仕事が減り、若くて可愛い新人女優にどんどん追い抜かれていった。
そして、同期の単体女優の友人が自殺をした。
凌辱やハードSMの仕事ばかりやらされた結果、精神的苦痛により命を絶った。
それと同時に、もう一人の同期は芸能界に入り、映画やドラマに出演する本物の女優へとのし上がった。2人の対極した人生を目の当たりにして私は自分がどうするべきかがわからなかった。
しばらくマネジャーに休みたい、とお願いしたところ、今の店を紹介してもらった。
体を使うのは同じ。だけど、プロダクションと違うのは相手が素人の男性でどんな人が来るのか毎日わからないこと。1人について、4万~5万。1日3人から4人。
週に5回出れば、20万は普通に稼げる。体は少し疲れるが、女優のときに比べたら精神的なストレスはほとんどなかった。マイペースに続けられていたし、女優に戻るのもやめようかと思っていたとき、同じ店で働いている元AV女優の月野あすかに呼ばれた。
「小雪さんってVやめたんですか?」
「うーん、どうしようかなって思ってるんだよね。」
「私が単体やれてたのってわずか1年ですよ。厳密にいうと事務所的に満足な売上あったのは半年だけ。それに比べて小雪さん、朝倉えりかは、5年間マスコミを賑わせた。羨ましかったですよ。私も憧れていました。前は景気も良かったし、ビデオも売れましたよね。今はもう2年間できる女優の方が珍しい。そんな時代なんです。」
「……何が言いたいの? 私の時代はもう終わり。あなたと同じ。現にこの店であなたの後輩なわけだし。」
月野あすかのぷっくりとしたセクシーな唇が意味深な笑顔を作った。
「あははっ、えりかさんに後輩なんていわれちゃうと困ります。でも、この店でナンバーワンは私です。あなたは入店して3か月でナンバー3になった。調子に乗らないでください。私がどんな思いでナンバーワン張ってるか分かりますか?ここはスタジオじゃないんです、撮り直しはない。やるなら本気で私と戦ってください。」
彼女はそういって帰って行った。私は周りが見えていなかったのかもしれない。そういえば、1日1本しか客が付かなくても毎日出勤している人もいれば、お茶を引いて泣いている子もいた。AV女優という経歴を店が前面に押し出すとそれだけでファンやAV女優に興味のある客が自然とつく。しかし、それも最初だけ。月野あすか、ナンバーワン嬢の夏美はそのこと言っていたのだと気が付いた。ここはスタジオじゃない、彼女の言葉が強く胸に焼き付いた。
それから、風俗の掲示板に悪口を書かれるのはもちろん、ドレスにイソジンやローションをかけられていたりすることが増えていった。在籍30人以上の嬢がいるこの店で誰が犯人なのかは突き止めるのが困難だったし、夏美のドレスもたびたび汚されているのに気付いた。彼女は何もなかったようにドレスを捨てて、個室待機の部屋へ向かった。
夏美とまともに会話をしたことがある女の子はほとんどいなかった。彼女はこのことも予期して話してくれたのだ。もし、彼女に何も言われていなかったら私はすでにこの店を辞めていたのかもしれない。
彼女に感謝をしつつ、私も本気で仕事をした。そして、ちょうど私が入店して2年が経った頃、夏美は店を辞めた。
「戦える人がいたから頑張れました。ありがとうございます。」
彼女はそういって店を後にあとにした。私も充分にお礼を言ってフランスへ移り住む夏美にコートをプレゼントした。
3000万ほどの資金をこの店で作った夏美は小さい頃に憧れていた美しいフランスの街で感性を磨き、さらに美しい女性へと成長していくのだろう。
風俗業界という世間では大きな声で言えない業界かもしれないが、女が劇的に人生を変えられ、夢を掴んでいける世界なのだ。
プロ意識の高い女性は美しい。過去の悔しさをバネに夏美は夢を叶えた。
私は夏美を引き継ぎ、彼女と同じ額を稼ぎ出すまで店を続けることを決めたのだ。