恋の花びら大回転
【第123話】「お風俗文学館4」後編
引き続き、田房永子さんの「男しか行かない場所に女が行ってきました」(イースト・プレス)のレビューです。
さて、この本の中で、田房さんは富裕層のスワッピングパーティーに潜入取材もしています。そこにいるのは、社長風のオヤジと若い女の子の組み合わせばかり。さすが富裕層。自分の女と自分の体を他人に見せつけるという貴族のような遊びをしています。男同士のコミュニケーションツール(この場合は、見栄の張り合いの道具)として、女の体が使われているという点は、おっパブと変わりありません。
そして、取材の後、同行した男性編集者が「でも、(パーティーに)あんまりブス連れてっても、周りの人に悪いよなあ」と言ったことで、そのあまりにも自分本位かつ男視点すぎる発想に、田房さんの火がつきます。以下、引用。
「“健康”な男たちはいつでも、自分を軸にものごとを考える。(中略)『他者の気持ち』『他者側の選ぶ権利』が存在することをすっ飛ばして、まず『俺』を登場させる。そのとてつもない屈託なさに、いつも閉口させられる。(中略)自分が『男』という属性に所属している限り、揺るがない権利のようなものがあると彼らは感じているように、私には思える。それは彼らが小さい頃から全面的に『彼らの欲望』を肯定されてきた証しとも言えるのではないだろうか」
「俺にもやらせてくれるんでしょ?」と聞いてくる初対面のサラリーマン。30代の女に向かって「ババア」と言う70過ぎた老人。
接客業の女性だけでなく、女性なら誰もが経験するこのイラつきの原因は、「自分は揺るがない権利を持っている(と信じている)者の屈託のなさ」だったのだな、とこの一文でストンと腑に落ちました。
「男しか…」は、初めてお風俗産業に従事しようと思ってる方、今までもこれからも性産業に身を置こうと思っている方に、是非読んでいただきたい一冊です。お客さんたちが女性に対してどんな役割や言い訳を求めているのかを理解できるはずなので、今後のお仕事にきっと役立つと思います。また、お客さんに嫌なことをされたり言われたりした時も、この本を開いてさらに怒りを爆発させ、スッキリするのもいいかもしれません。
さて、「30分ガチンコ勝負」から合わせて7年もの長い間、お付き合いいただきありがとうございました。このまま誰に読まれることもなくインターネットの片隅で忘れ去られ、数百年後、未来の学者たちによって発掘されて「2010年代頃に書かれた文書だ!」と、叡智を駆使して解読してみたところ、ものすごいくだらないことしか書かれてなかった、みたいなことになったらいいなと思ってます。
みなさまのお風俗ライフに、幸多からんことを!
藍川じゅん
元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中!